特集

小さいこけしに込められた、 大きな挑戦と、おもてなしの大きな心

明治から昭和初期にかけて桜井こけしの礎を築いた大沼岩蔵。
その岩蔵から受け継がれる、桜井こけしの「小さいこけし」。
「小さいこけし」は、岩蔵にとっては大きな挑戦のひとつであり、
人々との交流を大事にしていた先代櫻井昭二にとっては、
昭二らしい、おもてなしの大きな心を託した大事なこけしでした。

大沼岩蔵から始まった小寸こけしへの挑戦

大沼岩蔵は、それまでの固定観念に捉われることなく、自分の作りたいものに挑戦し続ける工人でした。樹皮付きのこけしや紫を取り入れたこけしなど、当時誰も作っていない数々のこけしを生み出し、その挑戦する姿勢は、こけし蒐集家の方々から批判を受けます。そのような中でも岩蔵は様々な小寸(しょうすん)のこけし作りに挑みました。刃が小さいカンナ棒など、専用の道具づくりから始まる小寸こけしの製作は、サイズは小さくても手間がかかる大きな挑戦でした。岩蔵はただ小さいだけでなく、鉄兜を被ったものや甕型など、多種多様な小寸こけしを生み出しました。そのデザインは、とても山の中に篭っていた老公のものとは思えない、先鋭的で洗練されたものが多かったため、これもまた批判の的となっていましたが、批判を浴びながらも岩蔵が作りつづけた小寸こけしは、後の桜井こけしにとって、大きな存在となります。

岩蔵作    小寸こけしと樹皮付きこけし

先代昭二は、おもてなしの心を託した

大沼岩蔵に師事した先代の櫻井昭二は、岩蔵の多種多様な小寸こけしを製作するとともに、挑戦する精神も受け継ぎ、オリジナルの小寸こけしを生み出しました。麦わら帽子、ハット帽、ベレー帽、ボンボンニット帽、傘こけし、鈴型など、その種類の多さとデザイン性の高さは、岩蔵に引けを取りません。

 

昭二作 小寸こけし

昭二は、来訪者や地元の人との交流の場として「こけし堂」をつくりました。人と大きな心を持って接してきた昭二は、オリジナリティのある小寸こけしを生み出すだけでなく、そのおもてなしの心を「小さいこけし」に託すことにしました。1948年に鳴子温泉で始まったこけし祭り。その創世期に運営や企画に携わっていた昭二は、こけし祭り会場で、足踏み轆轤の実演も担当していました。その実演会場に訪れた人へのプレゼントとして、小寸のこけしを配り始めたのです。それから毎年、昭二の実演には人が集まり、小寸こけしが多くの方々のもとへ渡りました。今でも鳴子温泉のこけし工人さんから、「昭二さんの実演は毎年すごい人気で、どれだけ祭りに貢献していたことか」というお話しをお聞きすることがあるくらいです。
昭二は、こけし祭りの何ヶ月も前から、プレゼント用の小寸こけしづくりに時間を費やしました。こけし祭りを楽しんでもらおうと、こけしを好きになって帰ってもらおうと、また鳴子温泉に来てもらおうとした、昭二の大きな気概と人柄が伝わってきます。

昭二がプレゼントしていた小寸こけし

いまでも店舗に来てくださるお客さまから、「私の初めてのこけしは、こけし祭りで昭二さんにいただいたこけしです。」というお話をいくつもお聞きします。昭二が小寸こけしに託した心は、たくさんのお客様の心にも届きました。

昭二がこけし祭りの度に作り続けた「小さいこけし」は小さな種となり、たくさんの方の心の中で芽吹き、あれから数十年経った今でも、鳴子温泉を訪れるきっかけや、こけし祭りに来るきっかけ、桜井こけしへ来てくださるきっかけとなってくれています。岩蔵が生み出し、昭二が心を託した「小さいこけし」。今の桜井こけしにとって「小さいこけし」は、お客さまと私たちを繋いでくれる大きな存在となっています。

現工人 櫻井昭寛が発展させる小寸こけし

大沼岩蔵から櫻井昭二へと受け継がれた小寸こけしは、櫻井昭寛へ受け継がれました。

昭寛作  被り物こけし

岩蔵の鉄兜から始まり、昭二が作ったハット帽やボンボンニット帽など、被り物の小寸こけしは、桜井こけしを代表する「小さいこけし」シリーズのひとつとして、今もつくり続けています。

 

昭寛作 櫻井家伝統型の「小さいこけし」

「挑戦することが伝統」の桜井こけし、現工人の五代目櫻井昭寛も新たな小寸こけしに挑戦しています。櫻井家には先代の名前を冠した、「岩蔵型」「又五郎型」「万之丞型」など受け継がれた伝統型があります。昭寛は、その伝統型の「小さいこけし」の製作に意欲的に取組んでいます。
この挑戦は、「既存のこけしを小さくする」という単純なものではありません。代々受け継がれている伝統型ですが、櫻井家では過去の歴史的なこけしのコピーではなく、今の時代に生きる工人の感性と解釈によって、新しい今のこけしとして製作されます。また、伝統型は先代それぞれが理想のこけしを突き詰めた完成形です。木地の大きさと、そこに施される描彩のバランスは、どれも崩しようがない調和があります。その完成されたこけしを、一寸の「えじこ」「ねまりこ」へと形を変えていくということは、難しい課題である一方で、先代のこけしを深く理解している昭寛ならではの挑戦でした。

4年ぶりの全国こけし祭り通常開催

新型コロナウイルスの感染拡大により、中止や縮小開催が続いた全国こけし祭りも、今年は通常開催される運びとなりました。コロナ禍でこの数年、こけし祭りに来れなかった蒐集家やこけしファンの方々、こけしに興味を持っていても鳴子温泉まで足を運べてなかった方に、今年こそは「小さいこけし」でおもてなしができるよう、6月から昭寛が少しずつ製作してきました。

全国こけし祭りにお越しいただけない方にも、企画展を感じていただけるようネットショップ「koshiki shop」で販売をしております。少しでも桜井こけしや鳴子温泉、こけし祭りを感じていただけるように、皆様の元へお届けできればと思っております。

※オンラインショップは現在準備中です。

「小さいこけし」傘こけし

「小さいこけし」ボンボンニット帽

「小さいこけし」櫻井家伝統型

「小さいこけし」櫻井家伝統型