特集

【櫻井昭二展】甕型・鈴型・瓢箪型―受け継がれる造形の物語

大沼岩蔵から受け継がれる 櫻井家の造形

今年もこけし祭りの時期が近づいてきました。

毎年、桜井こけしの店内でこけし祭りの時期に合わせて開催している『伝統こけし展』。
第8回目となる今年は、『深澤コレクション』と『櫻井昭二』をテーマに店内で企画展を行います。

今回は、ふたつの企画のうち、『櫻井昭二展』で店頭に並ぶ
櫻井家の造形美を感じるこけしの由縁をお話ししたいと思います。

甕型(かめがた)、鈴型(すずがた)、そして瓢箪型(ひょうたんがた)など、櫻井家には代々受け継がれている特徴的なこけしの形があります。

櫻井家の造形の源は、明治から昭和初期にかけて活躍した工人・大沼岩蔵に遡ります。
彼は固定観念に縛られず、誰もやっていないことに挑み続けました。

鳴子の伝統を尊びつつ、自らの美意識で新しいものに取り組んでいく——それが岩蔵のものづくりの真髄でした。

大沼岩蔵 本人が作ったこけし

―甕型・鈴型・瓢箪型という造形の物語―

櫻井家には、三つの特別な造形のこけしが受け継がれています。
それが、甕型、鈴型、そして瓢箪型です。

それぞれの時代で生まれたこけしには、櫻井家の歴史と工人たちの美意識が深く刻まれています。

櫻井昭寛 作  左より 甕型、鈴型、瓢箪型

■ 岩蔵が生み出した甕型

大沼岩蔵は、造形そのものに革新をもたらした工人でした。
岩蔵を代表する大きな蕪頭(かぶらあたま)のこけしを作る一方で
てのひらに収まるほどの小さなこけしも生み出しました。
小さいほど難易度は格段に上がります。
岩蔵はそれらを製作するために、自ら道具を工夫し、繊細な仕事を積み重ねてきました。

中でも、彼が独自に生み出した甕型(かめがた)は、安定感のある量感と品格を併せ持ち、鳴子こけしの中でも異彩を放つものでした。

胴部に豊かなふくらみを持たせながら、頭部とのバランスを絶妙に取り、肩と裾に入れたビリガンナが美しい、静けさの中に力強さを宿すこけしは、岩蔵の技術と探究心の結晶ともいえます。

甕型は、櫻井家の造形の起点であり、その存在は後の世代にも強い影響を与えました。

 

■ 昭二が生み出した鈴型と瓢箪型

岩蔵の弟子であった櫻井昭二は、岩蔵から甕型を受け継ぎながらも、自らの感性で新たな形のこけしを創造しました。それが鈴型と瓢箪型です。

鈴型は、縁起を担ぐ鈴、神社の鈴をかたどった独自の造形です。
胴は二段に重ねられ、美しい曲線は木地挽きの高い技術の証。
櫻井家伝統の菊模様が精緻に描かれ、伝統の意匠と端正なフォルムが見事に調和しています。

瓢箪型は、上下二つの膨らみを持つ曲線美が魅力で、優雅さとリズム感を併せ持っています。昭二はこの形に柔らかな色彩や模様を添え、古典的な美と現代的な親しみやすさを融合させました。
現代でも色褪せないモダンな佇まいのこけしです。

櫻井昭二 作 鈴型(初期)

 

櫻井昭二 作 甕型

■ 昭寛が受け継ぐ三型

五代目の櫻井昭寛は、岩蔵の甕型、昭二の鈴型と瓢箪型、そのすべてを受け継ぎ、製作を続けています。

先代達から伝統の型を受け継ぐということは、単なる再現ではありません。
型の本質を徹底的に理解したうえで、現代の感覚に合わせ生み出されるこけし。

守るべき型と向き合い、その理解から生まれる「変化」を加え、最終的には自分の解釈を加えて形になります。
昭寛の手から生まれる三型には、先代たちの想いが息づいています。

櫻井昭寛

 

甕型、鈴型、瓢箪型――三つの型は、櫻井家の系譜そのものといえます。

岩蔵が甕型を生み、昭二が鈴型と瓢箪型を創造し、昭寛がそれらを現代の形として繋ぎ、次の世代の尚道へと受け継がれていく、櫻井家の伝統型。

それぞれの型には、時代を超えても変わらない精神と、その時代の感覚が共に宿っています。

 

企画展では、こちらの甕型、鈴型、瓢箪型の他にも昭二から受け継いだ帽子のこけしも企画展にて実際にご覧いただけます。

ぜひ暮らしを豊かにするひとつの彩りとしてお選びいただけましたら嬉しいです。

 

第8回伝統こけし展

会期:2025年9月6日(土)-9月21日(日)
会場:桜井こけし 鳴子本店

 

オンラインショップ『kohiki shop』でも販売を予定しています。