ゆかりの人を訪ねて
【桜井こけし ゆかりの人】 佐々木一澄さん
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シリーズ「桜井こけし ゆかりの人を 訪ねて」
思い入れのあるこけしや、櫻井家への想いなどお話を伺いました。
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(1982年東京都生まれ こけし蒐集家/イラストレーター)
――まず、鳴子のこけしとの出会いについてお聞かせください。
もともとお土産物や民藝品が好きで、こけしが好きになったのは2008年に東京国立博物館で見た「大琳派展」がきっかけです。琳派のようなフラットな感じの絵が好みで、その時に現代の琳派ってどういうものだろう、型染めみたいなものかなあと考えて、それが買える新宿の「備後屋」という民藝品店に行ったんです。そこは地下1階から4階まで日本各地の民藝品が置いてあって、最初は型染めを見ていたんですが、地下に降りたら日本全国の郷土玩具がずらりと並んでいて、すごく月並みな言葉ですけど、ビビッと雷に打たれるような衝撃を受けました。そこでいくつか買った玩具の中にこけしも含まれていました。
その時、自分は紙の専門店「竹尾」で販売員として働いていて、まだイラストレーターとしては仕事ができていませんでした。そんな中、家で郷土玩具とかこけしを眺めていた時に、そのおおらかな雰囲気に触発され、自分もこの感じで絵を描けばいいのかもと思って描き始めたら、イラストの仕事の依頼が来るようになったんです。だから郷土玩具やこけしは自分の中では恩人みたいなところもあるんです。
――そこからどういう経緯で、こけしに心が流れていったのでしょう?
全国にはさまざまな郷土玩具があるのに、なんでこけしだけ本がいっぱい出ていたり、コレクターがいっぱいいたりするんだろうって思って、こけしのことを調べたら、東北に10いくつの系統あるとかいろいろわかって、じゃあ東北に行ってみようと、2009年の秋に仙台のカメイ美術館や遠刈田、作並などの産地をまわって、最後は鳴子のこけし祭りの行くという旅行をしたんです。
鳴子に着くと、ちょうどこけし祭りの準備中で、まるでこけしのテーマパークみたいに見えてびっくりして興奮しました。で、翌日会場に行ったら、ものすごい人が並んでて、その熱気に圧倒されながらいろいろ見ていたら、櫻井昭二さんに「おいっ」って呼び止められたんです。それでふと見ると、「これやるよ」って4寸くらいのこけしを一本くれたんです。その時、まだ僕は昭二さんの名前も知らないし、なんだこのおじいさんは?って思ったんですけど(笑)、次の日も会場に行ったら、また昭二さんがこけしをくれたんです。
で、その頃、文章と絵で日記のようなものを書いてほしいと文芸誌から依頼されていて、「あ、良いエピソードがある!」とこけし祭りのその時のことを書いて掲載誌を昭二さんにお送りしたんです。そうしたら電話があって「遊びに来なよ」って言われて、それから昭二さんとの交流が始まりました。
山の工房を訪ねた時は、昭二さんはアロエヨーグルトと草団子でもてなしてくれました。昭二さんは僕の父方の祖父に少し雰囲気が似ていて、帰る時は僕たちが見えなくなるまでずっと手を振ってくれて、すごくいい時間を過ごしたなあって今も思います。それですっかり昭二さん贔屓になって、2010年のこけし祭りにまた行きましたが、それが昭二さんにお会いした最後になりました。
昭二さんが昔つくっていたこけしの絵を描いて、こういうこけしをつくってくれませんかってお願いしていたんですが、結局つくってもらえず。
その後、2011年のこけし祭りの時にお線香をあげに行ったら、昭寛さんが「俺が代わりにつくりました」と渡してくださって、それから昭寛さんともお話するようになりました。
――櫻井昭二のこけしについてはどういう印象をお持ちですか?
これぞこけし、という感じですね。伝統こけしの流れを大きく汲みながら、同時に新しいこともやった人ですが、伝統こけしといえばこういうものっていう、僕の中では代表格。岩蔵さんはそれ以前のもっと自由で、何にも縛られない感じがあると思います。
岩蔵さんも万之丞さんもコウさんも、こけしはすごく好きで集めてますけど、僕は昭二さんに惹かれて櫻井家とつながったので、コレクターの先輩方が岩蔵さんに抱く憧れとはちょっと違うかもしれません。入りが昭二さんなので。
岩蔵さんは作風の幅が広くて、いまだに「こんなものもあるんだ!」っていうのが出てきたりする。決められたものを量産するんじゃなくて、作品としてつくり始めた最初の人だったんじゃないかという印象です。強い作家性があって、それは昭二さんにも昭寛さんにも尚道くんにも受け継がれていると思います。
昭二さんのこけしは岩蔵さんに近いものが多いけれど、精神性は万之丞さんから受け継いでいる部分も大きいんじゃないかなと僕は思っています。岩蔵さんはこけし祭りとかどうでもよかったでしょうし(笑)、万之丞さんは鳴子の町の人間として生きて、生活のために自分の店というものをしっかり構えていた。僕は自分にも子供がいることもあるし、養っていかねば!という万之丞さんの生き方に共感するところもあります。
――櫻井昭寛に対してはどんな印象をお持ちですか?
「ああ、こけしが好きなんだな〜」って、とにかくそういう印象が強い。こけしの話をしてると、口とんがらして興奮してくる(笑)、とにかくすごくこけしが好き。昭二さんと違うのは、昭二さんは岩蔵さんそのものに憧れていたけど、昭寛さんは岩蔵さんのこけしに憧れてつくっているのかなあという印象があります。昭二さんより、もっと作家性みたいなものを昭寛さんには感じます。年齢を重ねてくると今のように軽やかさはなくなるかもしれないけど、逆にもっと枯れていった時に何か別のすごいものが出てくる気もしています。
――櫻井尚道のこけしについてはどうでしょう?
岩蔵さん、昭二さん、昭寛さんのこけしとは違って、とても柔らかいイメージ。昭寛さんはもっと鋭さがある。それから尚道さんも昭寛さんと同じように、人ではなく、先人たちのこけしに憧れているって感じがする。今は尚道さんがこれから先どんなこけしをつくるのか、あまり見えてこないけれど、まだ若いですし、これからどんどんそれがわかるようになるのかなと思っています。
――では最後に「桜井こけし」の特徴を一言で表すと?
瑞々しい。模様のせいなのか、白いからなのか、瑞々しい、といつも思います。
昭寛さんは鋭い瑞々しさで、尚道くんは柔らかい瑞々しさ。昭二さんはもうちょっと強い感じ。岩蔵さんはまた別な感じで、例えば草花そのものっていう感じの瑞々しさかもしれない。
(談:2024年3月)
Text by Miho Sauser
佐々木一澄さんお気に入りの「桜井こけし」
櫻井尚道作 岩蔵型/18.5cm
「触った時にフワッて溶けちゃうような柔らかい生地の感じ。
それは昭二さんにも昭寛さんにもないものです。
これは自分が持ってるこけしの中で一番柔らかい。
筆も柔らかくて和みます。人を跳ね除けない、おおらかさを感じるこけしです」