特集
【櫻井昭二展】受け継がれる子守こけし――昭二から昭寛へ

桜井こけしの店内に並ぶこけしの中で、ひときわ温もりを感じさせる存在があります。
「子守こけし」。
お母さんが赤ちゃんをおんぶしているその姿は、見る人の心をやさしく包み込みます。

櫻井昭二作 子守こけし
昭和20年代、桜井こけしの四代目・櫻井昭二が生み出した子守こけし。
とても穏やかで優しい母と母の背中で安心している子供の様子です。
着物やほっかむりなどの
細やかなに丁寧に描かれた描彩が、そのやさしさと暖かさをさらに際立たせています。
背中の赤ちゃんの角度、おんぶしている着物の造形、
それらは、昭二ならではの精妙なバランスと美意識で表現されています。
当時、こけしはまだ土産物や玩具としての性格が強く、その造形はある程度定型化されていました。
しかし昭二は、その枠を軽やかに越えて、今の時代でも色褪せることのない
様々なこけしを生み出しました。
彼は蒐集家が持ち込む古作や名品を深く研究し、それらを高い技術と自身の感性で表現しました。
岩蔵や万之丞など先代たちの精神を受け継ぎつつも、そこに昭和の時代の感覚と優しい人柄が織り込まれた昭二のこけし。
子守こけしは、その代表的なこけしのひとつでした。
そして今、この子守こけしを現代の感覚で表現しているのが、五代目・櫻井昭寛です。
昭寛が作る子守こけしは、先代たちが築いてきた櫻井家のものづくりへの思想を、現代の感覚で表現しています。

櫻井昭寛 作 子守こけし
昭寛の子守こけしを見ていると、そこに昭二の面影を感じる方は少なくないと思います。
昭寛は、父や祖父の作品をただ模倣するのではなく、それぞれの感性を身体に刻み込みながら、自らの解釈で取り組んでいきます。
だからこそ、昭寛の子守こけしは、昭二のおもかげを残しながらも現代的な洗練さと軽やかさを併せ持つ昭寛らしい佇まいを感じることが出来ます。

おんぶされた赤ちゃんの愛らしい様子
時代が変わっても揺るがない櫻井家の香りをまといながら、
今この瞬間の昭寛自身の感性で形作られた、紛れもない現代の子守こけしとなっています。
子守こけしの魅力は、その形や描彩だけではありません。
作品を手に取った時に感じる、木の温もりと安心感、母と子の愛らしさ。
それは、作り手の人柄や生き方がそのまま形になったものと言えます。
昭二と昭寛が描く母親像は、同じではなく、
それぞれの人生がその背景に滲み出ているようです。
そして、いま六代目の尚道がその二人の人生を受け継ぎ、子守りこけしの製作をはじめました。
岩蔵の探究心に端を発し、昭二の作家性を経て、昭寛、尚道に至るまで脈々と流れ続けている櫻井家のものづくりへの精神。
この流れの中で生まれる子守こけしは、三代にわたる美意識と技術が交差して生まれた、櫻井家だけの特別な存在です。
ぜひ店頭で、それぞれの子守りこけしをゆっくりご覧ください。
穏やかなおっとりした表情、決意をもって子供を背負っているような若いお母さん、その背中で安心してすやすや寝ている小さな子供。
一人ひとりの人生がこけしから感じられるようで、ご自身の想いも重ねてお選びいただく方が多いように思います。
9/6から始まる企画展『櫻井昭二展』に
どうぞ足をお運びいただけましたら幸いです。
第8回伝統こけし展
会期:2025年9月6日(土)-9月21日(日)
会場:桜井こけし 鳴子本店
オンラインショップ『kohiki shop』でも販売を予定しています。