ゆかりの人を訪ねて
【桜井こけし ゆかりの人】 村野斗史雄さん
シリーズ「桜井こけし ゆかりの人を 訪ねて」
思い入れのあるこけしや、櫻井家への想いなどお話を伺いました。
(1974年東京都生まれ こけし蒐集家/東京こけし友の会 会員)
――まず、鳴子のこけしとの出会いについてお聞かせください。
祖父が古いからくり人形を集めていたり、茶道をやっていた祖母が、菓子皿をこけしの工人さんに頼んでつくってもらっていたりして、小さい頃からこけしは身近にありました。でも僕は最初はこけしではなくて郷土玩具を集めていました。
2013年くらいから、こけし蒐集家兄妹として有名な渡辺純と渡辺麻依子に連れられて東北を回るようになって、その頃もまだこけしにはさほど興味は持っていませんでした。そんなある日、渡辺純に誘われて、東京神田にある「ひやね」という古書店でのこけしマニアたちの飲み会に行った時に、そこで鳴子の高橋武蔵さんが昭和11年(1936年)頃につくったこけしに一目惚れしてしまったんです。
そこからこけしに興味を持って、鳴子のこけし祭りにも行ったりして、高橋武蔵さんの息子でもある高橋正吾さんと出会って、意気投合してしまい、こけしのめり込んでいくことになりました。
――「桜井こけし」に初めて行ったのはいつですか?
2014年くらいに、正吾さんと「昔のこけしの色は今と違う」というような話をしている時に、「僕は以前テレビ局で舞台美術の仕事をしていたことがあって、知り合いの工房が古い染料を持ってるから、それを試してみてはどうですか?」と言ったんです。それで実際に染料を何度か持って行って、その時、正吾さんに「こんなにいっぱい一生かかっても俺は使い切れないから、桜井さんのところでも使ってもらったらどうか」って言われて、その時、桜井こけしに初めて行きました。
昭寛さんは不在で、染料と名刺を預けて帰って、その半年か1年後ぐらいにまた桜井さんのところに行って、買い物がてらに「以前、染料を置いていった者です」と話をしたら、奥から昭寛さんが出てきて、初めて昭寛さんと話しました。
その後、岩蔵さんが描いている「宝珠」っていう蓮の花のつぼみみたいな模様のこけしが載っている本を、何かの機会に昭寛さんに見せて、これを描いてほしいとオーダーしたりして、よく話すようになりました。ちょうど尚道くんが鳴子に戻ってきて修行をし始めた頃だと思います。
――鳴子という場所についてはどういう印象を持ちましたか?
温泉とこけし屋さん、工人の工房が直結していて、それらが温泉街の中にすべてあるっていうのは、全国でも鳴子だけなんじゃないかと思います。街ぐるみで活気があって、訪れると一番楽しいこけしの産地ですね。駅から徒歩でいろんなこけし店に行けますし、コロナ後は僕が最初に行った時とは少し変わっているとは思いますが、こけしをまったく知らない人でも親しみやすい街、というのが鳴子の印象です。
――櫻井昭二、昭寛についてはどういう印象をお持ちですか?
僕は結構、侘び寂びというか、はかない感じのこけしが好きで、色調で選ぶことが多いんです。自分のこけしの棚に並べて馴染むかどうかっていうのをイメージして集めています。あと、もともと郷土玩具が好きだったので、こけしとして立派なものじゃなくて、おもちゃとして面白いもの、見ていて面白いものがメイン。そうすると昭二さんのこけしは、僕にとってはちょっと上手すぎるかな、という感じなんですね。
僕より上の世代の人達は、昭二さんをはじめ、正吾さん、大沼秀雄さん、遊佐福寿さんなどのこけしをこぞって集めていました。昭二さんの素晴らしさっていうのは皆さんがよく語っていて、木地の挽き方とかは本当にすごく上手いと思います。小寸の面白いこけしもいろいろあります。でも、やっぱり直接会って頼んでつくってもらうっていうことに満足感を覚えるじゃないですか。だから僕は遅くに集め始めた分、昭二さんとの面識がないので、昭二さんよりは昭寛さんがつくったものを結構いっぱい買っています。
昭二さんが亡くなって1年目2年目あたりの昭寛さんのこけしは、ものすごく迫力があります。今はちょっと尚道くんに跡を譲るみたいになってて、少し落ち着いた感もありますが、時々すごく力強いのがあって、それがものすごくいいんです。
「桜井こけし」というと、大元をたどっていくとやっぱり岩蔵さんに行き着きますが、実は僕は自分が持ってる「桜井こけし」の中で一番好きなのは健三郎さんなんです。迫力はないんですけど、木地と描彩のバランスがすごくいい。岩蔵さんは当たり外れがすごくて、当たった時の爆発力がすごい。健三郎はコンスタントに良いものをつくっていたと感じています。
――櫻井尚道に期待することはありますか?
尚道くんには鳴子の若手として頑張っていってほしいですね。基本的な技術を身に付けた後に、いろんなものを取り入れて崩していくのは簡単なので、今は昭寛さんから教わるべき技術を教わる時期だと思います。今のうちに受け継がないと二度と吸収できなくなってしまう。かと言ってあまり急がず、ゆっくり長くやっていってほしい。昭寛さんの技術をしっかり受け継ぎ、いいものをつくり続ける工人になってほしいです。
――では最後に「桜井こけし」の特徴を一言で表すと?
上品。鳴子のこけし自体が、他の系統のこけしに比べて上品だと思うんですが、桜井さんのこけしは、その中でもさらに上品。店構えもちょっと洗練された感じで、あのセンス、僕はすごくいいと思います。
上品なので、おもちゃというよりは鑑賞物という感じですね。だから逆に桜井さんのところが、ものすごいおもちゃ的なものをつくるっていうのも、なかなか面白いんじゃないかと思うんです。そういうのも見てみたい。
鑑賞物としてのこけしは、おそらく今のままで既に完成形に近い。でも、そこで満足しないで雛人形や鏡餅なんかもつくっている。今後はその幅をどれだけ広げていけるか、ですね。ここはやっぱり尚道くんに頑張ってもらって、今の上品で都会的なセンスを維持しながら、どうやって子供にも喜ばれるおもちゃにするか、いろいろ挑戦してみてほしいです。
(談:2024年1月)
Text by Miho Sauser
村野斗史雄さんお気に入りの「桜井こけし」
大沼岩蔵作/15.0cm
大沼健三郎作/21.0cm
村野斗史雄さんにとって思い入れの深い「桜井こけし」。
桜井こけし 鳴子本店で初めて買ったのは中央の作者不明の古鳴子こけし。